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2008年3月18日 (火)

新教育の森:家庭の経済力が学力格差反映 生活困窮や複雑な家庭、子供をどう支えるか

 家庭の経済力が学力の格差に深く関係していると指摘されるようになって久しい。子供の多くは生活の困窮や複雑な家庭環境など一人では乗り越えられない課題を抱えている。こうした現状を乗り越え、子供たちの学力を支えようとする学校を追った。

 ◆班で話し合い学習

 東大阪市立金岡中学校の校区内には、市営住宅や学生向けアパートに居住する世帯もある。同校は片方の親だけの家庭が3割を超え、就学援助を受ける生徒も4割以上いる。

 民生委員に「学校へ行っていない子がいる」と学校に通報され、ようやく通学するようになった生徒や、母子家庭の母親が複数の仕事を掛け持ちしているため朝なかなか目覚めることができず担任教諭が起こしに行ったり、親に代わり弟や妹を保育所に送り届けて遅刻する子供もいる。塩尻文男校長は「学力を身に着けるとか、家庭学習をするとか、そういう環境にない生徒は少なくない」と話す。

 「1問は自分の力でできるように」。1年生の英語の授業では、コの字形に並べた机の真ん中で、三好徹司教諭が呼びかける。しかし、教室の後ろではほとんど聞き取れない。生徒の集中力を高めるためわざと小さい声にしているという。生徒は4人ずつの班に分かれ、話し合いながら英文を作っていく。

 別の教室では2年生が数学の授業で班ごとに「確率と場合の数」の問題に取り組み、班の一つは三つの数字を組み合わせてできる数が何通りあるか、カードを使い実験している。山岸充典教諭は「普通、こういう教材は使わないがどんな生徒も関心が保てるようにしている」と説明する。

 ◆大事な文化的環境

 金岡中は80年代、校内暴力などで荒れていたことから、悩んだ教師たちが学区内の小学校と交流を始めた。5年前から、小中一体となって授業の組み立てについて研究を始めた。班ごとに話し合いながら学習を進めるなど試行錯誤で工夫を凝らした。教員同士も生徒の状態について情報交換し、頻繁に家庭訪問して、家庭環境を理解する努力を欠かさない。

 その結果、不登校の生徒は減り、生徒たちの口からは「あきらめた」「もういい」という言葉が消えた。昨春、全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)で行われた意識調査では「勉強は好きか」「大切だと思うか」などの項目で、肯定的に答えた生徒の割合は全国平均を上回った。塩尻校長は「学校全体の学びの意欲が出始めた」という。

 大阪大の志水宏吉教授らの研究グループは、01年「家の人はテレビでニュース番組を見る」「小さいとき、家の人に絵本を読んでもらった」など5項目のアンケートと学力テスト(算数・数学、国語)を行い、子供たちの文化的環境と学力の関係を調査した。アンケート結果をもとに、子供たちが置かれている文化的環境を上位・中位・下位のグループに分けたところ、例えば中学校の学力テストの合計点(200点満点)の平均は、上位グループが下位を大きく上回り、関係は密接であると結論付けた。一方で、こうした格差を克服した学校には教員集団のチーム力、地域連携や小中連携などがあることも指摘した。志水教授は「経済力や家庭環境がしんどい層の下支えは、決して簡単ではない。金岡中は教員集団が一丸となり、相当なエネルギーを注いでいる」と話す。

 ◆子供の表情見る

 「小学校から築いてきた友情と先生の温かい見守りがあってこその成果だと思っています」。東京都江東区の女性教諭は1月、10年間勤めていた別の区立小学校を卒業した女子生徒から手紙を受け取った。手紙には、同級生のほとんどが高校進学を決めたと記されていた。その中には家庭環境にやや不安があり、心配していた男児の名前もあった。

 校区内には外国人家庭や母子家庭の子供が多く、半数以上が就学援助を受給している。基本的な漢字や九九が身に着いていない、授業中に何度も筆箱を落とす、宿題をしてこない、忘れものが多い……。着任したてのころは、驚くことばかりだった。

 手紙に書かれていた男児の父親は中国残留邦人。帰国後、中国人女性と結婚し、男児をもうけたが別居し祖母と3人で生活していた。

 男児は授業中に悪ふざけばかりしていたがある日、社会の授業中に資料集に載ったイカ釣り船の写真を見て言った。「真ん中に、死んでるイカがいる。血出てるし」。女性教諭が意味を尋ねると、別の児童が解説した。「違うよ。生きてるんだよ。取れたてのイカは赤いんだよ。父さん漁師だから、船に乗せてもらったときに見たよ」。子供たちは初めて聞く話に目を輝かせた。

 女性教諭は、こうした自発的な意欲を大切にするようになった。児童の表情を見逃さないため黒板はほとんど使わない。「ノートを取らなくても、子供たちは覚えている」。代わりに機会あるごとに作文を書かせ、考える力を養った。「面白い授業をすれば、学力の低い子もついてくる」。男児も含め児童たちには学ぶ意欲がうかがえるようになった。女性教諭は「あの学校で教師として育てられた」と振り返る。女性教諭の実践に立ち会ってきた埼玉大の岩川直樹教授は「教室に落ち着いて居られない子供たちは集中力がない、注意力がないとレッテルを張られがちだが、一人一人が心に傷を持っている。女性教諭はそれを把握しているからこそ、仲間とのつながりをつくり出す『学び』の瞬間を逃さないのだと思う」と指摘する。

 ◇就学援助率高い学校ほど平均正答率が低い傾向に

 昨春に、43年ぶりに行われた全国学力テストでは、経済的に苦しく就学援助を受けている児童生徒が多い学校が、少ない学校より平均正答率が低い傾向が浮き彫りになった。

 中学の数学の活用問題「数学B」では、就学援助を受ける生徒がいない学校の平均正答率は66%に達したが、5割以上在籍している学校では46%しかなかった。

 知識を問う「数学A」でも、平均正答率に約20ポイントの開きがあった。中学校国語、小学校の国語・算数でも同じ傾向があり、経済的に余裕のある家庭の子の多い学校の方が、そうでない学校より正答率が高かった。

 ただ、就学援助率の高い学校の中には平均正答率が高い学校もある。文部科学省学力調査室は「格差と学力に関連があるとは断言できないが、背景についてさらに分析を加えている。読書や早寝など生活習慣が学力に及ぼす影響も大きい」と話す。

 ◇「自ら学ぶ力」育てるフィンランド、いまだに「知識量」を重視する日本−−都留文科大・福田誠治教授

 読解力が問われる経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)ではフィンランドがトップを維持する一方、日本は下落傾向が続く。「格差をなくせば子どもの学力は伸びる」などの著書もある福田誠治・都留文科大学教授にフィンランドとの違いについて聞いた。

 −−フィンランドは学力の底上げができているのか。
>
> 調査によると、「義務教育の効果が定着していない」と判断される「レベル1」以下の低学力層が、日本では読解力で18・4%、数学的活用力では13・0%を占めた。フィンランドはそれぞれ4・8%、5・9%で他国に抜きんでて少ない。

 −−どんな方法で成功しているのか。

 先生が非常に面白い授業をしている。身の回りのことから興味を引く質の高い教科書があり、できる子は自分でどんどん勉強する。できない子には正解を教えるのではなく、どうすれば自ら学べるかという発想で支える。問題があれば校長、養護教師、学校心理士、担任らがチームで対処する。

 −−日本のやり方は間違っているのか。

 PISAでは日本の学力はまだ、高いレベルを保っている。もともと日本は集団で学び高めあういい教育をしていた。それを習熟度別編成を認めることでバラバラに競争させられることになり台無しにした。これから問われるのは知識量ではなく人生を通した知識の活用力。日本は相変わらず「何を学んだか」を重視し、子供たちをテスト漬けにしてやる気と自信を奪ってしまっている。

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