鳥取県が全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)に絡み、教育的配慮を理由に県情報公開条例を改正し、開示したデータの使用を制限する配慮義務規定を新設しようとしている。ネットや新聞が主な規制対象だ。これに対して県内外から「知る権利を制約する」として反対の声が上がっている。
●「妥協案として」
県が情報公開条例を改正し、全国学力テストの市町村別、学校別の結果の開示に関係して、請求者に対して何らかの使用制限を付けることに言及したのは、10月3日の県議会。山田修平県教育委員長が「利用の仕方について制約条件のような形のものをつけられないかを検討している」と答弁した。
鳥取県内には南部町のように情報公開請求に対し学校別成績を開示する自治体がある一方で、県が開示に踏み切った場合には、鳥取市のように不参加をにおわす自治体も出てきている。そもそも学力テストが結果公表を前提として行われなかったことが、情報公開請求に対する対応の混乱に拍車をかける形となった。
県教委は10月下旬、情報開示を求める県情報公開審議会や県議会と、これに反対する市町村などの意見をにらみ「特定の学校または学級を識別できる方法による公表、提供をしてはならない」と制限付きで開示する条例改正案をまとめ、一般からの意見を募った。
山田委員長は「知る権利と子供を守りたい人たちの視点とのバランスを考えた妥協案だ」と教育委員に説明した。平井伸治知事も今月6日の会見で、条例には適正な使用を求める規定があることを指摘し、改正案について「憲法上の論議を起こすまでに至らない」とした。
●一転、修正に
鳥取県教委が公表した改正案には、表現の自由を保障する憲法21条が「検閲はしてはならない」と規定する「検閲」に当たる恐れがあるなどと批判が相次いだ。
このため県教委は意見募集の締め切り(今月20日)を待たずに修正を迫られた。14日、使用制限を付した上で開示する条件付き規定を撤回。開示を受けた者は不特定多数の者に提供しないことを責務とする規定にした修正案を公表した。
県教委がまとめた修正案は、開示を受けた者はその情報の取り扱いについて▽公表したり、不特定多数の者に提供しないなど児童の心情への配慮▽学校の序列化や過度の競争が生じないような配慮−−が求められる。
当初案は、義務規定の色が濃かったが修正案は倫理・訓示規定に近い。条例改正し一定の期間が過ぎた後に必要性の有無を検討する見直し規定はない。
「一番念頭にあるのはネットとか新聞紙面のように誰でも目に触れるものだ」。修正案が議論となった19日の県情報公開審議会の会合。県教育委員会事務局の福本慎一次長は、条例改正で念頭に置く規制対象についてそう語った。
NPOの情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事は「当初案は教育的配慮を理由に公表を禁止するなど違憲の可能性があった。しかし、修正案も萎縮(いしゅく)効果は大きく本質は変わりない。請求者に責任を委ね、事後的に関与しようとする分、より巧妙で悪質だ」と指摘する。
これに対して、中永広樹教育長は14日の定例教育委員会後に「モラルに期待する修正案は、知る権利に抵触しないと考える」と言い切る。
●県の判断で中止要請も
三木理事が指摘するように条例運用上、修正案を根拠に県の事後的な関与は可能だ。条例の「解釈・運用指針」は、不適正に使用されたり、その恐れがあると県が認めた場合は「中止を要請する」ことができると規定している。条例を所管する県民室によると、要請する前に事情を聴くことになるといい、調査権もあるという解釈だ。
県教委などによると、不動産業者が宅地や建物などの物件販売に当たって、優秀な学校がある区域に立地していることを売り込み材料として利用することは配慮規定に違反する。一方、学校や地域の保護者らが学力向上のために開く会合での配布は、児童の心情を損なっていないという。
報道との関係ではどうか。例えば、学力低位校の教職員が成績向上のために体罰を振るうような不祥事が発覚したとする。その背景を探ったり、再発防止のための裏付けとして情報を利用して報道した場合、森脇光洋県民室長は「微妙だ」とし、抵触する可能性を示唆する。
地域による学力差を分析する研究会での情報交換も制約を受ける恐れがある。配慮規定は、「教育的配慮」を目的とし、学術研究や報道といった公益的な利用を念頭に置いていないためだ。
白井靖二・小中学校課長は取材に対し「過度な競争や学校の序列化には、報道で公になることによる影響もある。学術研究も個別の学校名を出さなくてもいいのではないか」と説明する。
県民室は、修正案は児童が心情を損ねられたとして請求者に損害賠償や、使用差し止めを求められるような新たな権利を与えるものではないと説明。ただし、裁判官の心証に影響を与える基準になるとみている。
●不透明な審議の行方
14日の定例の教育委員会でも修正案に対して強い批判が出た。中島諒人委員は「抑止的な効果は否定できない。知る権利を後退させる」と反対を表明。情報開示を求める県議会決議の起草者の一人、福本竜平県議も「県が不適正な使用と判断したケースごとに争えば十分で、一般規定は不要だ。報道機関が萎縮を感じること自体が不自然で、他県への影響も考えられる」と指摘する。
また、19日の情報公開審議会では河本充弘会長が「情報公開条例は知る権利を最大限尊重するもので、責務規定でも萎縮を生む。他の情報開示についても同じような制限、責務が広がる。認めるべきではない」と述べ、審議会は全員一致で反対することを決めた。
一方、県教委は22日、「成長段階にある児童等の心情に配慮し、特定の学校または学級が識別されることにより学校の序列化、過度の競争等が生じることのないように使用しなければならない」と、配慮義務に再修正した改正案を賛成多数で決めた。
配慮義務規定と同様、罰則を伴わないものの、表現の自由を制約する法律は複数ある。放送法は政治的公平などを放送事業者に求める規定があり、少年法は少年の実名報道を禁じる。これらの規定は、行政機関による指導や勧告の根拠として運用されてきた。
服部孝章・立教大教授(メディア法)は「この種の規定を根拠に行政機関は報道機関への関与を深めてきた。今回の規定もこの延長線上にある。メディアの倫理を行政が規定すること自体、おかしい」と指摘する。
改正案は26日に県議会に提出されるが、審議の行方は不透明だ。
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■条例改正までの経緯■
今年7月、鳥取県情報公開審議会が「10人以下の学級のもの以外は開示」と規定する県情報公開条例の規定に沿い、全国学力テストの市町村別と学校別データを開示すべきだと県教委に答申した。県は片山善博前知事時代から「開かれた県政」を標ぼう。学力テストに関する規定は片山知事時代の03年、県独自の学力調査の実施に伴い試験結果の取り扱いを議論する中で生まれた。
ところが県教委は8月、開示に反対する市町村教委などの反発に押し流される形で答申を覆し、非開示を決定した。条例上の根拠は示されず、「教育的配慮」などが理由に挙げられた。
非開示決定に対し、市民オンブズ鳥取が10月、条例違反として決定の取り消しを求めて鳥取地裁に提訴。条例を作った県議会も同月「条例の趣旨に反する」として開示を求める決議案を採択した。
こうした反発に県教委は動揺。同月、09年度分以降のデータを開示すると方針転換した。ただし、開示に反対する市町村教委や学校の反発を和らげるため使用制限規定を盛り込んだ。この規定が憲法に抵触するとの批判が巻き起こり、県教委は改正案を修正。「配慮」という義務規定が生まれた。
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