小論文や面接によるAO入試を行う大学が増えている。意欲の高いユニークな人材を取る目的で導入されたが、学力不足も叫ばれる。優秀な生徒を見極め、育てるには、大学側の相当の工夫が必要なようだ。
◆私大入学者の9.6%
「メキシコで貧しい子どものための学校を造りたい」。メキシコに留学した高校生はそんな夢を語り、慶応大のAO入試に合格した。東京都内の女子高生は「人の心を癒やす建築物が造りたい」と、早稲田大創造理工学部の建築学科を目指す。
AO入試では、具体的な目標を持つことが求められる。
「そんなこと、ホントにできるの?」。面接では数人の教授が厳しい質問を次々投げかける。受験者同士のグループディスカッションを課す大学もあり、コミュニケーション能力や意欲がはかりにかけられる。
文部科学省によると、08年度には国公私立の498大学がAO入試を実施し、合格者は4万7000人を超える。私大での普及が進み、私大入学者の9・6%がAO入試合格者だ。AO入試を行う大学が年々増えていることについて、文科省大学入試室は「学力だけを偏重せず、能力や意欲を多様な手段で見極め、学生の入学意図と共通の理解を持とうとする大学が増えているのではないか。入試は主に夏に行われるため、早い時期に学生を確保できるメリットもある」と話す。
◇選考作業の労いとわず あふれるパワーに応える−−導入第一号の慶大湘南藤沢キャンパス
慶大の湘南藤沢キャンパス(SFC)は90年度に日本で初めて、AO入試を導入した。
「一人一人を丁寧に見る入試が実現できる。合格者はエネルギーに満ちていて、入学後にすぐ走り出すことができる」。SFCの阿川尚之総合政策学部長は評価する。
同学部は今春、1年生のモチベーションを高めるため、米大統領選の予備選挙を模した架空選挙を実施した。学生有志が「小沢」「福田」などの名前で立候補し、政策を掲げて支援者を集め票数を競った。立候補したのはほとんどがAO入試の合格者。「東国原」を名乗る男子学生は自腹を切って宮崎県庁を訪ね、地元の役人と地方活性化について話し込み、激しい「選挙活動」で10キロやせた末、当選を勝ち取ったという。
阿川学部長は「AO組のパワーは他学生や教員にも伝わる。キャンパスをただの秀才ばかりにしたくない。やる気と好奇心のある学生は面接での表現法が稚拙でも『何かやるかもしれない』と思わせる」と語る。
◆入学後も高い成績
AO入試合格者の入学後の成績も、05年まで一貫して一般入試組より高い。一方でAO入試を支える教職員の負担は重い。2000字の入学志願書を読み込み、面接をこなし、人物評価を行うなど事務作業は膨大だ。慶大の98年度調査によると、出願者940人の書類審査と面接に計2282時間を費やした。1人2・4時間かかった計算だ。調査報告書は「ほしい学生を獲得する当然のコストだが、選考負担は教員にとって許容の限界に近い」と記す。
「手間ひまはかかるが、学生の質はもともと高い。AO入試を続け、AO入試で取った学生の面倒を見るのは『慎重に選んで植樹し、水をやって育てた若木が立派な大木となる』のを見守るような充実感かもしれない」。阿川学部長はそう結ぶ。
◆学力不足で廃止も
一方で、「学力に難がみられる」と制度を見直す大学もある。筑波大は09年度入試から国際総合学類でのAO入試を廃止した。「学力がおぼつかない」として、AO入試合格者に通信教育を受けさせていた一橋大商学部も、09年度から中止を決めた。
九州大法学部は10年度から廃止する。毎年の追跡調査で当初は、AO入試の合格者が成績がよかったが、一般入試組が逆転したという。「特殊な力や意志を持つ人が入ってこなくなった。積極的な学生も一部いるが、大きな労力をかけてやる意味を見いだせなくなった」。直江真一法学部長は受験生の変化を強調した。
生徒の質の変化を嘆く声は他にもある。ある大学関係者は「小論文や面接の対策が塾や学校で充実したせいなのか、画一化された受験生が来るようになった」とこぼす。
◆出願に一定成績課す
こうした中、中央教育審議会の大学分科会は今年1月、AO入試に「学力検査や大学入試センター試験を用いるべきだ」と提言した。学力志向は高まる一方で、センター試験を利用したり、高校時代に一定の成績だったことを出願条件とする大学も増えている。
東北大もその一つで、「学力重視のAO入試」を掲げる。合格者も年々増やし、00年度は全合格者のうちAO入試による者が8%だったが、08年度は17%(436人)にも達した。東北大高等教育開発推進センターの石井光夫教授は「追跡調査による入学後の成績は良好で、意欲やリーダーシップも高い評価が出ている。出願要件の成績基準が厳しすぎると嘆く高校もあるが、今の手法でよく機能していると思う」と話す。09年度からは最後に残っていた文学部も参入し、10学部全部がAO入試を行う。
慶大も05年度から、書類と面接だけのA方式に加え、高校時代の評定平均4・5以上を出願要件とするB方式をAO入試に加えている。
◇キミのやる気は本物か−−予備校は徹底指導
◇容赦ない面接特訓、志願書作りに半年
「君、他の専攻を目指した方がいいんじゃないの」
推薦やAO入試に力を入れる予備校「早稲田塾」の講座。パワーポイントを手に作品を説明していた高3男子は「えっ」とうつむいた。建築や美術系の学科を目指す生徒のためのデッサン講座で、11月下旬、AO入試の本番を控えた面接特訓が行われた。講師や仲間が面接官となり、容赦ないせりふを連発する。「120の想定問答を作れ」と指示され準備はしているものの、返答に詰まって立ち往生も珍しくない。
東京都内の私立女子高3年生(18)は「自分を外にさらけ出さないタイプだったけれど、面接の練習で素直に出せるようになった」と話す。
早稲田塾のAO推薦入試担当、新城肇さんは言う。「入学志願書をチョコチョコと作文すれば受かると思われがちなAO入試だが、本気で挑まないと受からない。志望理由を深めるためには、少なくても出願の半年前から準備が必要。ネットリサーチしたり、中央省庁に直接取材に出向く子もいる」
早大政治経済学部と慶大法学部のAO入試に合格した女子生徒(18)は「夏いっぱい志願書作りに取り組んだ。一般入試の勉強もあって焦ったけれど、具体的な将来目標を描き、夢を具体化するために半年間頑張れたことは、自分の力になった」と振り返る。
AO入試はどうすれば成功するのか。AO入試に詳しい新城さんは、慶大SFCの制度を最も評価している。「成績をあまり重視せず、面接で人間の『エネルギー値』を見ている。入学後すぐに4年生や大学院生もいるゼミに飛び込ませ、やりたいことを追求させる。入学後のカリキュラムと入試制度が連動しているため、学生が一直線で伸びていく」。AO入試に懸ける大学側の思いが弱いと、入試が機能せず、志望者も減っていくという。
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