◇わかる授業が特色
入学試験も定期試験も行わない「エンカレッジスクール」として、5年前に再出発した東京都立足立東高校(足立区)が、基礎中心の「わかる授業」で中退率を激減させている。エンカレ校を生み出した都立高改革は成功しているのだろうか。
◆テストなく30分授業
自転車やバイクが廊下を走り回り、茶髪の生徒が学校を抜け出して近所をうろつく。足立東高は数年前まで生徒が荒れ、地元で廃校運動が起きたこともあった。しかし都のエンカレッジスクールの第1号に指定され、03年度に入学試験の選抜方法や授業の進め方を変えた結果、生まれ変わった。今、ほとんどの生徒は静かに席につき、茶髪も化粧した生徒も見当たらない。
「かつての中退率は24%を超え、1年で130人もの生徒がやめた年もある。昨年度は6%。最近は1年生の中退が減ったことがうれしい」。清水頭(しみずがしら)賢二校長は言う。校長室のホワイトボードの日程表には、各地の県立高の名前が書き込まれている。中退を減らしたすべを学ぼうと、低学力の子を抱える公立高の視察が相次いでいるのだ。
「エンカレッジ」は「励ます」という意味。小中学校の授業についていけなかった生徒のやる気を育てるため、都教委がこれまで4校を指定した。エンカレ校では、入試時の学力テストは行わず、面接や小論文などで「学びたい」気持ちがどれほど強いかをみる。入学後は授業に集中できるよう、1年生では30分授業を導入。英数国は習熟度別の四つのクラスに分け、時には小中学生の内容にまで戻って丁寧に教える。
◆2人担任制で目配り
「今日の天気は?」「cloudy」。「今日は何日ですか」「December second」。1年生の英語の授業。先生の問いかけに、生徒たちがやや小さめの声だが、英語で答えている。友達としゃべったり、机に突っ伏して寝る子もいない。足立東高で教えて10年目という大谷望教諭は「中1の途中から英語についていけなくなった、という生徒が多い。氷を溶かすように、わかるところまで戻って教えている」と話す。
「中学と違い、先生はやさしく説明してくれる。友達目線で『どうしてる?』といつも声をかけてくれる」。2年生の女子生徒(17)は、きめ細かい対応に満足しているようだ。エンカレ校は2人担任制で、クラスに配置された2人の教師が、服装の乱れはないか、家庭生活や授業で困ったことはないか、一人一人に目を配る。
エンカレ校が生まれた背景には、高校進学率の高まりとともに、一部の高校で意欲のない生徒が目立つようになったことがある。都教育庁都立学校教育部の高橋美弥子副参事は「授業が面白いと感じない生徒の足が、学校に向かなくなった。目的意識を持ち自立した生徒を育てるため、学校が変わる必要があった」と振り返る。
◆午後は体験学習中心
エンカレ校には、勉強だけでない別の受け皿が用意されている。サッカーや和太鼓などの実技や、職場実習する体験学習で、午後は教科学習を行わず体験が中心となる。スーパーでの販売や保育園で子どもの世話をする職場実習では当初、実習のある日に休んだり、途中で消えてしまう生徒もいたが、今はほとんどない。就職先を真剣に考えるようになったのか、03年度卒業生の半数は卒業時に進路未定だったが、07年度には約2割まで下がった。
「知識や学力だけが人を成長させる要素ではない。卒業後に独り立ちできる力をつけることを目標にしている」。清水頭校長は強調する。
しかし、新生・足立東高にも悩みはある。入学試験を課していた当時と違い、中堅レベルの大学に入れる子は減った。授業をサボって遊ぶようなタイプの生徒が減った代わりに、面接で評価されたおとなしい子が増え、活気に欠ける面がある。都教育庁は「定期試験がないことが、競争社会に耐えうる人材育成につながるか疑問な点もある」と語り、競い合いをどう実現させるかが課題とみている。
◇都立高改革、対象外は自助努力頼み−−進学校と底辺校には手厚いが
少子化に伴う生徒減や、学校に適応できない高校生の増加に対応するため、都は97年度から都立高改革を始めた。一つ一つの高校を特色づけ、生徒の興味や適性に合わせて多様化した。
改革で生まれた新しいタイプの高校は、▽小中学校で不登校を体験した生徒向けの「チャレンジスクール」▽昼でも夜でも学べる「昼夜間定時制高校」▽商業の専門校「リーディング・コマーシャル・ハイスクール」▽理工系への大学進学をめざす「科学技術高校」など。足立東高のように、既存の高校が新しい看板のもとで生まれ変わったり、統廃合や新設で全く新しい高校ができたりした。難関大を目指す生徒の多い日比谷高校などトップ7校は「進学指導重点校」とされ、自校作成の問題による入学試験や土曜授業を行い、学力対策に力を入れる。
改革の柱でもあるエンカレ校では、各校が中退率を減らしている。エンカレ以前と最新の中退率を比べると、蒲田高は15・2%から7%に、秋留台高は10・4%から7・6%に、練馬工業高は16・8%から7%になった。この効果に他県も注目し、神奈川県は今春から同様の「クリエイティブスクール」を導入する。
◆苦悩する「中間校」
都立高改革による余波もある。新設校や特色化する高校が相次ぐ中、看板をかけ直していない学校で中退者が多発する傾向があるのだ。
南葛飾高(葛飾区)の昨年度の中退率は16%。特に1年生の中退が多く、今年度は1年生の85%以上の進級を目指したが、実現は難しそうだ。星野裕史校長は「厳しい生徒が集まっているのは事実。もっと教員が配置されれば、きめ細かい指導ができるのだが」と悩む。
勉強意欲や目的意識の薄い子に悩む教員は、授業や生徒指導でさまざまな工夫をしている。ノートを取らない生徒が多いため、プリントを配って書き込ませ、授業後はなくさないように回収。すべて書き込みが終わるとノートに張らせる。学校を休みがちになった生徒には、「これ以上休むと危ない」と訪問や電話で何度も働きかける。携帯電話についても、授業中の使用がわかれば取り上げるようにした。星野校長は「どんな子でも入学できるのが公立高のよさ。やめさせないためにも、わかる授業をめざして努力している」と話す。
ある都立高校長は「都立高改革で、10年前に200校以上あった全日制高校が170校になった。荒れていた学校がなくなったりモデルチェンジしたりして、行き場を失った生徒が一つの学校に集まる傾向がある」と指摘。別の校長は「改革では進学校と底辺校に手厚い対策がとられたが、普通の高校が苦しんでいる」と指摘する。
都教育庁は「新しいタイプの学校に指定されなくても、それぞれの学校が独自の理念や特色を打ち出さなくてはならない。都立高改革はまだ道半ば」と指摘し、各校に努力を促している。
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