◇小学5、6年生完全必修化に向けて
2011年度から小学5、6年生で年間35時間(週1時間)の英語が必修となるが、一部の学校は移行期間が始まる今年度から前倒しでスタートする。2年後に迫った完全実施を前に試行錯誤する学校現場を訪ねた。
◇移行期間でも前倒しで
「Nice to meet you(初めまして)」
「My name is David(私はデービッドです)」−−。
外国語指導助手(ALT)のあいさつに子どもたちが英語で続く。のどかな農作地帯が広がる茨城県南東部の町、行方市の小貫小学校。今月16日、5年生の教室で新学習指導要領に基づく初めての英語の授業が行われていた。
全校児童66人。1学年1クラス、一部は複式学級の小さな学校だ。都会のように日常的に外国人に接しているわけではない。「外国では相手の目を見てあいさつするのよ」。恥ずかしそうにしている子どもたちに担任の高須智子教諭(42)が声をかける。
授業は文部科学省が今年度から全国の小学校に配布した新教材「英語ノート」に沿って行われた。ノートの第1回は「自己紹介」。ALTのデービッドさんが、指導資料に従って「私の好きな動物はパンダ。君は?」と英語で聞くと、「ドッグ」「ラビット」と答えが返ってくる。うまく答えられずに、もじもじしている子どもには高須教諭が横に付いて「何が好きだっけ?」と助け舟を出した。
文科省は11年度まで3年間かけて段階的に英語の「必修化」を進めることにしている。この間の授業時間は各小学校長の裁量に委ねられているが、茨城県では今年度から県下一斉に年間35時間の授業が始まる。県教育庁は「11年度に自信を持って英語の授業ができる状態にするには、移行期間の初年度から35時間で行う必要がある」と説明する。
もっとも全くゼロからスタートするわけではない。県内のほぼすべての小学校は既に、「総合的な学習の時間」を活用して何らかの英語教育を行っており、県平均では年間18時間(07年度)に上る。ところが、取り組みには差があり、国の「英語特区」に指定された水戸市が年間55時間に上るのに対し、小貫小など多くの学校は10時間以下だ。
◆ALT任せではだめ
問題は時間数だけではない。県内のある市教委幹部が「これまでは何もかもALT任せだった」と話すように、多くの学校で英語教育の中心的役割を果たしてきたのはALTや「英語サポーター」などと呼ばれる、英語に堪能な地域の住民らだ。だが、今後はあくまでも担任が主導し、ALTらは補佐という位置付けがより明確になる。「英語が得意ではない。ALTとのコミュニケーションが課題」と話す小貫小の高須教諭に限らず、大半の教員にとって当面は試行錯誤が続く。
◇研修始動、楽しむ感覚知る
今月13日、同県古河市の上辺見小学校に市内の全小学校から約30人の教員が集まった。5、6年生の担任向けに市が独自で始めた研修会の初日だ。「少しでも多く英単語を覚えさせようという意識ではなく、コミュニケーションを楽しむという考え方で臨んでください」。教材を提供する英語教育会社の女性が冒頭、授業のコツを説明した。
続いて音楽を使った実践練習。「4ガールズ アンド 2ボーイズ!」。先生役を務める、市内在住の英語サポーターが声をかけると、教員たちが英語を使って仲間を集めるため走り回る。ALTも交じって指示された人数がそろうと、グループで音楽に合わせて英語の歌を歌う。子どものように無邪気に笑う女性教員や、人数がそろわず悔しそうな表情の男性教員。子どもたちの立場になって、楽しみながら英語を学ぶ感覚を肌で感じてもらうのが狙いだ。
◆苦手意識なくせ
文科省は都道府県教委に対し年3回の研修を行うよう指導しているが、同市はこれとは別に、授業を先取りした具体的な研修を年間7回計画している。「子どもたちの前で英語に対する苦手意識が出るようでは困る。研修を受け、自信を持って教室に臨んでほしい」と市学校教育部の中村勝則指導主事。
参加した5年生担任の井出佐久江教諭(55)も「小学校の先生は大学で英語の教え方を学んでいないから、このような機会は大切だと思う」と話す。
◇全担任に講習/英語学校の補助 中学教員と互いに授業見学−−先進地・東京都荒川区の場合
小学英語の先進地域では、どのような支援体制を敷いているのか。東京23区で最も早い04年度に区内の全小学校全学年で週1回の英語授業を始めた荒川区の場合は、外部講師による定期研修のほか、全担任を対象とした夏季講習も実施している。教員が英語学校などに通う場合の金銭補助(年間5万円)もあり、昨年は24人が利用。また、区内の小中学校の教員が互いに英語の授業を見学したり、英語教育の専門家の大学教授が各学校を視察してアドバイスする機会なども設けている。
区内にある第三日暮里小学校。世界各国の国旗で彩られた専用の「イングリッシュルーム」には、英語の絵本やゲーム用カードなど、多数の副教材が並ぶ。この日は2年生の授業だったが、内容は既に5年生レベル。堀内俊雄校長は「(文科省の)英語ノートはうちの指導計画に合わないので、あまり使わない」と言う。
クラスメート同士、英語でじゃんけんし、負けた方が手製の名刺を差し出すゲームを繰り返す。ALTの質問に「Here(はい)」と我先に手を挙げる子どもたちに物おじする様子はまるでなかった。担任とALT、「英語教育アドバイザー」と呼ばれる日本人女性の3人の連携もスムーズだ。
同区の小学校1校当たりの英語予算は23区中トップクラスの308万円。財政難の自治体がまねるのは容易ではない。教員の負担増を懸念する声もある。区教委の平岡栄一指導主事は「大事なのは、系統だった研修ができるかどうか。お金をかけないでもできることはある。教員が互いの授業を見て、意見を交換し合うだけでも大きい」と話している。
◇小学英語、97%導入済みですが−−「指導力向上」これから 「堪能な人材確保」課題
国内のほとんどの小学校は、既に英語教育を始めている。全国連合小学校長会が昨夏行ったアンケート(861校の校長が回答)では97%が英語教育を導入済みで、授業時間が「年間35時間以上」も17.5%に上った。その半面、「15時間以下」が過半数を占めるなど、学校による取り組みの差は大きい。
また、文科省の07年度調査では、英語教育のための校内研修を「実施した」と答えた学校は、「実施していない」学校の6分の1程度にとどまっている。こうした現状を踏まえ、同校長会のアンケートでは、87.9%が「担任等の指導力向上を図る研修の充実が必要」と回答。「ALTや英語が堪能な地域人材の確保」を課題に挙げた学校長も4割以上に上った。
他のアジア諸国の現状を見れば、韓国や中国、台湾、タイなど多くの国・地域が小学低学年で英語を必修化している。政府の教育再生懇談会は昨年5月、必修化時期を小学3年まで引き下げるよう提言した。その一方で、日本語教育がおろそかになるという批判の声もある。
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